ご挨拶 ー 第十世 鍬海 政雲一心 ー
祗園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり
誰もがご存知の「平家物語」冒頭部分です。
諸行無常とは虚しいというような意味ではなく、これは万物万象はたえず変化しているという程の意味です。
流れを下ればどのような河でも景色が変わるように、喩え伝統と申しましても、人の伝えしものである以上、多少なりとも変わっていくのは防ぎようがありません。
ましてや武士の時代は終わりを告げ、社会そのものが大きく変化した現代におきまして、これを完全にそのまま伝えていくのは不可能な事です。
形骸化する事なく本質だけでも伝える事が出来れば、伝承を受け継いだ吾々の面目は立つのかもしれません。
ですが、喩えそれが不可能な事だとわかっておりましても、それでもなお、これを極限まで変容させずに伝えようという強固な意志がなければ、何を守っていけば良いのかという指針すら失ってしまいます。
時代に即していかなければ遺せませんが、時代に抗わなければ遺せません。
この大いなる矛盾と吾々は常に向き合わなければならないのです。
このように申しますと、如何にも伝承というのは、重々しく、堅苦しいように感じられるかもしれません。
ですが修業者が皆等しくそのような重責を背負って、気負う必要はありません。
兵法の修業は実に楽しいものです。
常に変わっていく自分を体感する事が出来ます。
冒頭に述べた通り、世の中は諸行無常です。
怠れば下達し、励めば上達するという理からは、老若男女問わず逃れる事は出来ません。
私達は精一杯に汗を流して腕を伸ばす事で、伝承者たちの偉大なる創意工夫とその叡智に触れる事が出来るのです。
本来は命のやりとりを行うためのものであり、また使命を帯びた武士の、血なまぐさい世界の理でした。
そうした数々の苦労を経て、時代は変わりました。
私達は平和な社会において、楽しくこの兵法を学ぶ事が出来るのです。
誰もが最初は素人です。
無理をする事もなく、各々が伸び伸びと稽古に励む事が出来る時代です。
天心流では明るく、楽しく、そして真剣に稽古に励んでおります。
兵法と触れ合う方が一人でも増える事で、流儀の流れは勢いを増して、本流をしっかりと末に伝える事が出来るのです。
是非とも古武術に触れて下さい。
天心流は大きく門戸を開いて、共に道を歩まれる方をお待ちしております。
天心流兵法 第十世 鍬海 政雲